出産を終えた直後のことは、正直、ぼんやりとしか覚えていません。
今こうして記録を残そうと思っても、あの瞬間の私は“ハイ”になっていたという表現がぴったり。
きっと、自分の身体の中でいろんなホルモンが一気に分泌されて、脳が保護モードに入っていたんだと思います。
夫に頼んでおいた動画や写真を見返しながら、少しずつ記憶をたどっていきます。
ベビーが取り上げられていく。不思議な「非現実感」
助産師さんが手際よく、スルッと赤ちゃんを取り上げてくれました。
何度も想像した「その瞬間」。でも、いざ現実になると、不思議と感情が追いついてこない。
ベビーはすぐにコットへ運ばれ、看護師さんたちが口の中に溜まった羊水をチューブで吸ったり、体を拭いたりと忙しそうに処置をしていました。
「わぁ…これが私の赤ちゃんか…」
そう思う間もなく、私はただぼんやりとその様子を見ていました。
看護師さんと夫からの水分補給。いらないけど、飲んでいた
看護師さんに促された夫が、私のもとへやってきて、
「ゼリー食べる?水分とって」と渡してきたけれど、正直なところ、食べたいとか飲みたいとか、そんな気持ちは全くありませんでした。
でも、ストローを差し出されると、なんとなく飲んでいました。
たぶん、出産中にかいた汗や体液でかなりの水分が失われていたと思います。
それでも、自分では「喉が渇いた」と感じる余裕すらない。ただただ、放心。
産後の処置開始。胎盤を出すためにググッと押される
少しエネルギー補給をしたところで、いよいよ産後の処置が始まりました。
まずは胎盤の排出。
私の場合、自力では出なかったのか、看護師さんが子宮のあたりをぐーーーっと強く押して出してくれました。
正直、この胎盤が出る瞬間の記憶はあまり残っていません。
でも、赤ちゃんの次にあんなに大きなものが体内から出てくるなんて…と、後になってじわじわ驚きました。
会陰縫合。表面麻酔がとにかく痛い!!
胎盤が出終わると、先生から「会陰の縫合をしますね。まず表面麻酔をします」と説明がありました。
薬剤師の私は思わず「表面麻酔ってキシロカインかな?」なんて頭をよぎったけれど、そんな知識なんてどうでもいいくらい麻酔が痛い!!!
出産が終わったあとだから、もう何を叫んでも恥ずかしくない。
「痛い!!」「やめて!」って本能的に叫びまくりました。
何度も追加で麻酔を打たれたけど、それもまた痛い…。
ナイーブな場所だから余計に敏感に感じたんだと思います。
糸の感触がリアルすぎる。いつ終わるの…?
「縫いますね〜」という先生の声とともに、糸が“ぐいっ、ゴリゴリ…”と通っていく感覚。
うっすら麻酔が効いてるのか、感覚があるのかないのか曖昧。でも、確かに「縫われている」ことだけは分かる。
私は「いつ終わるの?」「まだ?」「痛い〜」と何度も先生に声をかける。
そのたびに、優しく返してくれる先生と看護師さん。本当にありがたかったです。
カンガルーケア、はじまる。「え…この子、私の子?」
処置が一通り終わったあと、赤ちゃんとのカンガルーケアが始まりました。
カンガルーケアとは、赤ちゃんとママが素肌で肌を合わせて抱っこするケア方法。赤ちゃんの体温や呼吸が安定しやすくなり、ママの母乳分泌も促進されるメリットがあります。
この産院ではカンガルーケアを推進していて、事前に同意書にもサインしていました。
でも実際に、我が子を胸に抱いたその瞬間。
「……え? この子が私の赤ちゃん……?」
実感が全くなかったんです。
ふわふわしてて、小さくて、なんだか未知の生き物を抱っこしているような感覚。ぼーっとしながら抱いていたことは覚えています。
胎盤を見たい!願いが叶った瞬間
バースプランに書いていた「胎盤を見たい」という希望。
赤ちゃんを抱いている私に助産師さんが、丁寧に見せてくれました。
拳よりも大きい、赤黒いかたまり。
「これが私の体の中で赤ちゃんと繋がってたんだ…」
とても神秘的で、感動しました。
ベビーの動きがゆっくり。心配になるほど静か
生まれたばかりの赤ちゃんは、ほんの少しの動きしか見せず、私はちょっと不安に。
「ちゃんと息してるのかな?」って何度も覗き込んでしまったけれど、看護師さんたちの表情が明るくて、少し安心できました。今思うと、新生児特有の動きだったと思います。
夫とベビーと、3人だけの静かな時間。
この時間が、“家族になった”という実感をじわじわと教えてくれました。
トイレに行くも…出ない!?導尿という処置
1時間ほどの家族タイムが終わると、夫は一度帰宅。
私は車椅子に乗せられ、トイレへ。
「自力で尿を出せるか確認しましょうね〜」と助産師さんに言われてトイレに座るも…まったく出ない。
「出ません」と伝えると、導尿されることに。
どうやら、出産の影響で膀胱の感覚が一時的になくなっているママも多いのだそう。
「“出したい”と思ってトイレに行けるようになるのが大事ですよ」と励まされました。
怒涛の出産劇、ひとまず終了!
こうして、長くて短い、怒涛の出産が幕を閉じました。
あの瞬間のことはまだ夢の中にいるようだけど、赤ちゃんは確かに私の腕の中にいて、私は「母」になったんだと少しずつ実感してきています。